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ビャウォヴィエジャ国立公園で伝説のヨーロッパ・バイソンに出会う

「ビャウォヴィエジャ」という名称は日本ではあまりなじみがないと思われますが、意外なところでご存知の方もいらっしゃるかもしれません。お酒の好きな方なら、きっと一度はどこかごらんになったことがあるズブロッカというウォッカ。実は、この名前はこのビャウォヴィエジャ原生林のジュブル(ヨーロッパ・バイソン)に由来するものです。そのウォッカのなかには香草が一本入っていますが、それはバイソングラスといわれるビャウォヴィエジャ産の香草で、ズブロッカ特有の芳醇な桜のような香りを出しています。

ラベルのモデルになっているジュブルは、かつてはヨーロッパのあちこちに生息し、1万5千年以上も前のアルタミラやラスコーの洞窟にも描かれているほどどこでも見かけられた野牛でした。しかし、中世以降の乱獲が原因で20世紀初頭には絶滅の危機にさらされるようになり、第1次世界大戦前には700頭を数えるのみとなり、1919年に、ビャウォヴィエジャ原生林のジュブルは死滅しました。当時、かろうじて生き残ったヨーロッパ・バイソンの数は世界中でわずか54頭となり、その中から純粋種のものを20余年にわたって人工繁殖を試みた結果、1952年に最初の新生ジュブルをビャウォヴィエジャの森に帰すことに成功しました。現在、世界に約4000頭しかいないヨーロッパバイソンの25%ほどがポーランド領内に生息しています。

ポーランドとベラルーシの国境に広がるビャウォヴィエジャ原生林は総面積1500㎢。そのうち東京都23区の面積とほぼ同じ625㎢がポーランド側にあります。ここはジュブルの故郷であるだけではなく、多くの動植物のサンクチュアリとしても知られています。1000種を超える維管束植物、蘚苔類200種、地衣類300種、昆虫8500種、鳥類250種、哺乳類300種もの植物や動物が、太古から変わらぬ環境にある森で生きているのです。

この原生林が今日まで守られてきた経緯にはなかなか面白いものがあり、ビャウォヴィエジャ国立公園内の宮殿公園にその鍵があります。宮殿建築自体は1944年に焼失してしまいましたが、かつては歴代のロシア皇帝が狩のために使用していた宮殿がかつてはそこにあり、古い写真を見ると50ヘクタールの庭園と付属の建物に囲まれた立派な建造物であったことがわかります。ビャウォヴィエジャ原生林は20世紀初めまでこの宮殿の所有者であったロシア皇帝の狩場として保護されていたことにより、開発や開墾が一切行われずに昔のままの姿を保つことができたのです。
国立公園としてのビャウォヴィエジャの歴史は、1919年に研究者を中心にした調査団が、ジュブルの生息の確認に乗り出したことから始まりました。その際にジュブルの生存は確認できなかったのですが、保護区として原生林を保護すべきだという提案がなされました。1921年に国立公園の国際基準を満たす「森林保護区」が指定され、実質的な国立公園の誕生となりました。その後、1932年には名称がビャウォヴィエジャ国立公園に変更され、現在に至っています。

今日のビャウォヴィエジャ国立公園は、全体のほぼ半分が特別保護区に指定されており、特別保護区には厳しい立ち入り制限が敷かれています。そのため、観光客は人の立ち入りが可能な定められたルート内での散策をすることになっています。ここの原生林は、かつてポーランドをふくむヨーロッパの低地部を覆っていた巨大な原生林が今日まで残ったものといわれており、その特徴は一般に針葉樹の多いヨーロッパの森と異なり、全体面積の2/3が広葉樹林であるということです。さらに、ベラルーシの〈ビェラヴィエシュスカヤ原生林〉国立公園とともに国境をまたいだユネスコ世界遺産であることと同時に世界生物圏保護区(MaB計画)の指定を受けていることも大きな特徴のひとつといえるでしょう。国境を越えた世界遺産は、世界に7ヶ所、ヨーロッパには3ヶ所しかありません。ビャウォヴィエジャ国立公園内には自然森林博物館や希少動物の飼育センターもあり、そこでは放し飼いされているジュブルにも出会えます。

四季を通じてそれぞれ違った表情を見せてくれるビャウォヴィエジャ国立公園は、自然への回帰を求める現代人の希求を十二分に満たしてくれる場所ですが、さらにポーランドの内陸部とは異なったエキゾチックな景観や民俗文化、人の手と木の温かさがあふれる建築などの文化的な興味を満たしてくれる魅力もたっぷりです。
公園内には2つの宿泊施設があり、近くの村には民宿やペンションなど、気軽にロングステイが楽しめる宿泊施設も多く、ここではちょっと長めのバカンスをゆったりと楽しんでみたいところです。旅のベストシーズンは5月から9月末までですが、秋も深まる10月は「ポーランドの黄金の秋」と呼ばれる季節。あちらこちらの広葉樹の葉が黄金(こがね)色一色に染まり、秋の陽を浴びながらキラキラと舞い落ちる様は圧巻です。

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